ステンレスの加工が難しい理由5選|加工方法や加工が難しい金属も紹介
ステンレスの加工が難しいと感じているあなたは、この記事でその理由と解決策を見つけることができます。
ステンレスはその耐久性と美しさで知られていますが、その加工には特有の挑戦が伴います。
この記事では、切削から溶接まで、各加工方法の詳細とそれぞれに最適な技術を解説しています。
加工の際に遭遇する問題、例えばバリの発生や材料のゆがみ、そしてスプリングバックなどの現象をどのように克服するかも紹介します。
これらの技術を駆使して、ステンレスを効果的に加工し、美しい仕上がりを実現するためのノウハウが満載です。
この情報を活用することで、加工が難しいステンレスに関する悩みを解消し、より高品質な製品を生み出すことができるようになります。
この記事の監修者
藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士
目次
そもそもステンレスとは
ステンレスは、「Stainless」が語源で、「錆びない」という意味を持つ金属製品を指しますが、実際には完全に錆びないわけではありません。
より正確には、「錆びに強い鉄鋼」と理解するのが妥当です。
この金属の公式名称は「ステンレス」と呼ばれ、主に鉄(Fe)を50%以上、クロミウム(Cr)を10.5%以上含む合金で構成されています。
鉄自体は酸化しやすく錆びやすい特性を持っていますが、クロミウムを加えることでその性質が大幅に改善され、非常に錆びにくくなります。
かつてはステンレスの製造には高いコストがかかり、比較的高価な材料とされていました。
しかし、最近の技術進歩により製造プロセスが改善され、品質が向上すると同時に生産コストが削減されました。
このような製造技術の発展が、ステンレス製品の広範な普及を促進しています。
関連記事:【保存版】ステンレスの特徴6選|種類や鉄との違いについても解説
ステンレスの加工が難しい理由5選
ステンレスの加工が難しい理由は以下のとおりです。
- ステンレスの種類によって加工方法が異なるため
- 一定の力がかかると硬くなるため
- 工具の破損の危険があるため
- ステンレスが割れる危険性があるため
- 工具との親和性が高い
順番に解説します。
【難しい理由①】ステンレスの種類によって加工方法が異なるため
ステンレスには、添加される異なる物質によって特性が異なります。
したがって、ステンレスを加工する際には、それぞれの特性を充分に理解してから作業に取り組むことが重要です。
特定のステンレスの特性を把握しないまま作業を始めると、さまざまな問題が発生する可能性があります。
例えば、引張強度が低いステンレスは、伸びが少ないため、加工が難しくなります。
したがって、加工するステンレスの特性を考慮し、適切な機器や方法を選択することが必要です。
【難しい理由②】一定の力がかかると硬くなるため
ステンレスは、一定の応力がかかると硬くなる特性を持ち、これを "加工硬化" と呼びます。
通常の使用範囲では、ステンレスは変形しても元に戻る力が働きますが、極端に強い力がかかるとその硬化が永続的になり、元の形状に戻すことが難しくなります。
ステンレスの硬度は、種類によって異なります。ステンレスは多くのバリエーションがあり、それぞれ異なる組成と特性を持っています。
したがって、一般的な硬度を一概に言うことは難しいです。
金属の世界では、個々の材料が独自の特性を持っており、標準的な特性を一般化することが難しいことがあります。
要するに、ステンレスは多様性に富んでおり、その特性や硬度は特定の種類に依存するため、具体的な情報が必要です。
【難しい理由③】工具の破損の危険があるため
ステンレスは、熱伝導率が低い特性を持っているため、加工時に熱が効率的に逃げにくいことが特徴です。
この性質により、切削作業中に発生する熱が工具や切削部材に蓄積しやすく、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
具体的には、加工熱が外部に逃げにくいため、切削工具に蓄積し、工具の過熱や破損のリスクが高まります。
さらに、工具の摩擦によって切削抵抗が増加し、これが加工熱のさらなる発生を引き起こすことで、負のループに陥ることがあります。
この状況は、ステンレスの変形や歪みも招く可能性があるため、加工作業が難しくなります。
工具の破損リスクを軽減するためには、適切な工具の選択が非常に重要です。
ステンレスの場合、ステップ数を最小限に抑えたり、ノンステップ切削を検討することで、工具への負担を減らし、効率的な加工を実現できます。
【難しい理由④】ステンレスが割れる危険性があるため
ステンレスの溶接は、熱を必要とする作業ですが、注意が必要です。
熱を加えた後に急激に冷却すると、マルテンサイト化が起こり、製品がクラックや割れの危険性が高まります。
したがって、適切な熱処理の方法を知っておくことが非常に重要です。
急激な冷却を避けるために、以下の方法を考慮することが大切です。
溶接後の冷却をゆっくり行う: 溶接が完了した後、製品を急激に冷却させないように、空気中で冷却をゆっくり行います。これにより、マルテンサイト化のリスクを減らせます。
バックパージング: 溶接時に、溶接部位を保護するためにバックパージングガスを使用することがあります。これにより、急激な冷却を避け、溶接部の品質を向上させられます。
適切な溶接材選定: ステンレスの種類やグレードに応じて、適切な溶接材を選定することも重要です。溶接材の特性が溶接品質に影響を与えるため、適切な材料の組み合わせを選ぶことが必要です。
これらの対策を講じることで、ステンレスの溶接時にマルテンサイト化を防ぎ、製品の耐久性を向上させられます。
【難しい理由⑤】工具との親和性が高い
ステンレスは工具との相性が良く、特に切削加工時に金属くずが工具にしっかりと付着しやすい特性があります。この工具との親和性が高い点は、いくつかのデメリットを伴うことがあります。
金属くずがはがれるとき工具の一部も剥がれる可能性がある
金属くずが工具に密着するため、くずがはがれる際には工具の一部分も一緒に剥がれることがあります。これが頻繁に起きると、工具の寿命が短くなる可能性があります。
金属くずが工具に溶着して切削加工が続く
金属くずが工具に密着しすぎると、くずが溶着してしまい、工具の切削能力が低下します。これにより、切削加工の品質や効率が低下する可能性があります。
これらのデメリットは、工具の状態が悪化することにつながり、結果として加工精度や生産効率に悪影響を与える可能性があります。そのため、ステンレスを加工する際には、金属くずの管理や工具のメンテナンスに特に注意が必要です。
加工が難しいのにステンレスを選ぶ理由
加工が難しいのにステンレスを選ぶ理由は以下のとおりです。
- 製品の耐久性を高められる
- 製品のメンテナンス性が上がる
- 耐食性の高い製品が作れる
順番に解説します。
製品の耐久性を高められる
ステンレスは、高い強度を持ち、高温や腐食に対する耐性が非常に高い素材です。
衝撃や圧力にも耐え、傷がつきにくく、錆びにくいため、ステンレス製品は耐久性に優れています。
そのため、長期間にわたって使用される建築材料や、過酷な環境で稼働する機械に適しています。
製品のメンテナンス性が上がる
ステンレスは手入れが簡単で、サビや汚れに対する耐性から、修理や交換の必要が少ない特徴があります。
ステンレス製品のメンテナンスは容易で、表面の清掃は簡単な作業です。
表面についた砂やホコリを払い、水で湿らせた柔らかい布やスポンジで拭くだけで、汚れが簡単に取り除かれます。
さらに、中性洗剤を使えば、軽度の汚れも効果的に除去できます。細かい傷がついても、クロムの酸化皮膜が自己修復し、表面を保護します。
そのため、ステンレス製品は美しさを維持しやすく、長い間使用できます。
耐食性の高い製品が作れる
ステンレスはその高い耐食性のため、水に頻繁に接する用途にも適しています。
例えば、流し台や食器類だけでなく、屋外で風雨にさらされる用途にも利用されています。
屋根や道路標識など、屋外での使用においても、ステンレスは優れた素材として信頼されています。
その耐食性の高さから、湿度や気象条件の影響を受けにくく、長期間にわたって高いパフォーマンスを維持します。
これにより、ステンレスは多くの環境で信頼性が高い素材として使用されています。
ステンレスの加工方法
ステンレスの加工方法は以下のとおりです。
- 切削加工
- 切断加工
- 曲げ加工
- 溶接
順番に解説します。
切削加工
切削加工は、工作機械を利用して材料を削り取ったり穴を開けたりする技術です。
普通鋼に比べて硬さと強度が高いステンレスは、切削作業において特別な扱いが必要です。
このため、ステンレスの切削加工には、快削鋼がよく用いられます。
ステンレス快削鋼には、切削性を向上させるために次の素材が添加されています。
- 硫黄(S)
- 鉛(Pb)
- セレン(Se)
これらの添加物は、ステンレスの加工性を高め、工具の摩耗を減少させる役割を果たします。
ステンレスの種類によって被削性指数が異なるため、加工前には適切な素材選びが重要です。
切削加工の難易度は使用するステンレスの特性に大きく左右されます。
切断加工
ステンレスのカット作業では、切断加工が不可欠です。
この加工方法は、以下の点を最小限に抑えるための技術が求められます。
- 加工後のバリの発生
- 加工による材料のゆがみ
高品質な切断結果を得るためには、適切な知識、経験、そして先進的な設備が必要です。
例えば、工具や工作機械に依存せずに材料に直接触れることなくカットを行うレーザーカット加工は、断面を非常に綺麗に仕上げることができます。
この方法は、精密な加工が求められる場合に特に有効です。
曲げ加工
ステンレスを曲げる加工には、様々な技術があります。
- プレス曲げ
- ロール曲げ
- ベンダーを使用した曲げ
これらの方法を選択する際には、ステンレスの種類や特性に応じた適切な曲げ加工法を選ぶ必要があり、高度な技術が求められます。
例として、曲げ加工時には材料が元の状態に部分的に戻ろうとする「スプリングバック」という現象が生じます。
ステンレスは他の金属と比べてスプリングバックが顕著であるため、予想されるスプリングバックを考慮した曲げ角度の調整が必須です。
溶接
溶接は複数の金属を融合させて一体化するプロセスです。ステンレスの溶接が特に難しいとされる理由は以下の通りです。
- ステンレスの成分やタイプに応じて最適な溶接方法が異なる。
- 高温の溶接プロセスによって材料の形状が変形する可能性がある。
- 溶接作業自体が高度な技術を要求される。
ステンレス溶接には様々な方法があり、それぞれに利点と欠点が存在します。
- 被覆アーク溶接
- サブマージアーク溶接
- レーザー溶接
- ガス溶接
これらの技術は、加工される物の大きさや種類によって選択されるべきです。最適な溶接法を選ぶことで、効果的にステンレスを溶接し、所望の結果を得ることができます。
ステンレスを加工する前に知っておくべきこと
ステンレスを加工する前に知っておくべきことは以下のとおりです。
- 腐食のリスクがある
- 溶接箇所の美観向上
順番に解説します。
腐食のリスクがある
ステンレスは耐久性が高いとされていますが、環境条件によっては腐食のリスクが存在します。
使用環境を考慮して適切なタイプのステンレスを選ぶことが重要です。
加工が完璧であっても、その材料が全ての条件で腐食に強いわけではありません。
溶接箇所の美観向上
ステンレスは通常、塗装せずにそのまま使用されるため、外観には特に注意が必要です。
裸の状態で設置されても問題ないように、美しい仕上がりが求められます。
設置場所が常に人目に触れることを念頭に置き、見た目の美しさを保つことが重要です。
加工が難しい金属
加工が難しい金属には、特有の物理的、化学的特性があり、その特性が加工プロセスにおける挑戦を引き起こします。以下は、加工が特に難しいとされる金属の例です。
チタン
高い強度と軽量性を持つが、その強度が高温での加工を困難にする。
切削時には工具に大きな負担がかかり、特別な工具や技術が必要。
ニッケル合金(インコネルなど)
極めて高い耐熱性と耐腐食性を持つが、これらの特性が加工時に工具の摩耗を加速させる。
非常に硬く、加工時には高いエネルギーが必要。
ステンレス鋼
耐腐食性が高いが、硬度も高く、特にオーステナイト系ステンレスは加工が難しい。
加工時には熱が発生しやすく、工具の摩耗や材料の変形が起こりやすい。
タングステン
非常に高い融点を持つが、その硬さと脆性が加工を難しくする。
主に粉末冶金技術が用いられる。
これらの金属は、特定の産業や用途で非常に価値があるものの、加工する際には高度な技術と専用の設備が必要とされます。
自社のステンレス加工の事例紹介
①SUS1(SUS304)
これはミーリング加工を採用しました。
主に高真空用接手フランジに使用されています。
加工手順は、素材~フライス~マシニングセンター~手仕上げによるミガキとなっています。
ポイントとしては、気密の為のOリング美溝です。
当社にしかできないことは、表面の仕上がり、Oリング溝の面粗さです。
②SUS2
上から小径SUSノズル、タングステン電極、SUSコレット、ジルコニウム部品となっています。
これらは半導体製造装置及び医療用機器部品として使用されています。
ポイントとしては、極小部品加工なことです。
当社は小物の高精度機械加工を得意とし、他社から良い評価をもらっています。
まとめ【ステンレスの加工が難しい理由を理解しましょう】
今回は、ステンレスの加工が難しい理由5選と併せて、ステンレスの概要、加工が難しいのにステンレスを選ぶ理由を解説しました。
ステンレスの加工が難しい理由は以下のとおりです。
- ステンレスの種類によって加工方法が異なるため
- 一定の力がかかると硬くなるため
- 工具の破損の危険があるため
- ステンレスが割れる危険性があるため
- 工具との親和性が高い
それぞれ理解した上で、加工依頼しましょう。
株式会社フラスコでは、昭和48年の創業依頼、一般産業用機械部品の設計・製作・組立をはじめ、ステンレス・チタンやタングステン、ジルコニウムなどの金属加工を行なってきました。
時代にニーズに合わせ、最新鋭の設備と創業から約40年間培った、難削加工を可能とする職人の加工技術で様々な製品を生み出しています。
他社には負けない、業界トップクラスの技術があります。
お問い合わせは無料なので気軽にご連絡ください。