インコネルを切削加工する時のポイント|種類や特性についても解説
インコネルの切削加工は、工具の摩耗や熱の蓄積、仕上がり不良など多くの課題に直面します。
「工具がすぐに摩耗する」「加工熱で工具が破損する」などの悩みを抱えていませんか?
この記事では、インコネル特有の加工硬化や溶着を防ぐための工具選定のポイント、最適な加工方法、さらに各種インコネルの特性について詳しく解説します。
この情報を活用することで、工具寿命の延長、加工品質の向上、効率的な作業が実現できます。
この記事の監修者

藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士

目次
インコネルを切削加工する時のポイント

インコネルを切削加工する時のポイントは以下のとおりです。
- 工具選定のポイント
- 加工方法のポイント
順番に解説します。
関連記事:【保存版】インコネルとは?種類や特徴についても解説
工具選定のポイント
工具の材質としては、ステンレスと同様に耐摩耗性に優れたコーティング超硬合金を選ぶことが効果的です。
また、工具形状については、切削時の切れ刃への負担を軽減するために、強ねじれ刃や多刃構造、ポジティブなすくい角など、最適な切れ刃形状を選定することが重要なポイントとなります。
加工方法のポイント
刃先に熱が蓄積しやすい特性があるため、一般的には多刃工具の使用が効果的です。
加工時には、熱の蓄積を防ぐために可能な限り回転数を上げることが重要です。
また、最適な加工条件の範囲(スイートスポット)が狭いため、正確に適切な条件を設定しないと、工具寿命に大きな影響を及ぼす可能性があります。
関連記事:【保存版】インコネルの加工の特性|加工方法のポイントも解説
インコネルの種類

インコネルの種類は以下のとおりです。
- インコネル600(Alloy 600)
- インコネル625(Alloy 625)
- インコネル718(Alloy 718)
- インコネルX750(Alloy X750)
順番に解説します。
インコネル600(Alloy 600)
主要成分(参考Wt%:Ni 72.0以上、Cr 14.0~17.0、Fe 6.0~10.0)
インコネル600は、優れた耐腐食性を備えた合金として知られています。特に、アルカリ性溶液との接触環境や酸化雰囲気下で高い耐久性を発揮します。
これは、高含有量のニッケルとクロムによる効果です。また、アンモニア環境に対する強さがあり、塩素イオンによる応力腐食割れや、乾燥した塩素および塩化水素による腐食にも高い耐性を示します。
インコネル625(Alloy 625)
主要成分(参考Wt%:Ni 58.0以上、Cr 20.0~23.5、Fe 5.0以下、Mo 8.0~10.0、Nb+Ta 3.15~4.15)
インコネル625は、塩化物溶液中でも孔食や隙間腐食が発生しにくい特性を持っています。
この優れた耐食性は、クロムとモリブデンの含有によるもので、高温の海水や汽水、さらには酸化性化学薬品にも強い耐性を示します。
さらに、ニオブを含んでいることで、熱処理や溶接後の粒間腐食を効果的に防ぐことができます。
インコネル718(Alloy 718)
主要成分(参考Wt%:Ni 50.0~55.0、Cr 17.0~21.0、Mo 2.8~3.3、Nb 4.75~5.5、Al 0.2~0.8、Ti 0.65~1.15(Feを含む))
インコネル718は、クロムとモリブデンの高い含有量により、高温および低温環境下でも優れた耐孔食性と耐腐食性を発揮します。
また、塩化物イオンによる応力腐食割れや溶接時の割れが起こりにくいことも大きな利点です。
加えて、焼鈍処理後の加工性にも優れており、幅広い用途で活用されています。
インコネルX750(Alloy X750)
主要成分(参考Wt%:Ni 70.0以上、Cr 14.0~17.0、Fe 5.0~9.0、Nb 0.7~1.2、Al 0.4~1.0、Ti 2.25~2.75)
インコネルX750は、高温および低温環境下での優れた耐腐食性を備えており、特に応力腐食割れに対して強い耐性を示します。
さらに、析出硬化処理によって高い硬度を実現しており、高温下での引張強度、破断強度、耐クリープ性、耐酸化性にも優れた性能を発揮します。
インコネルの特性

インコネルの特性は以下のとおりです。
- 加工硬化が起こる可能性がある
- 刃先に溶着しやすい
- 耐熱性が高い
順番に解説します。
加工硬化が起こる可能性がある
金属に外力が加わると、その変形は弾性変形と塑性変形に分けられます。
一定のひずみを超えると、弾性変形から塑性変形へと移行します。加工硬化とは、塑性変形によって原子配列が乱れ、結果として弾性変形や塑性変形が生じにくくなる現象です。
インコネルは、この加工硬化が発生しやすい特性を持つ材料として知られています。
刃先に溶着しやすい
インコネルはドリルなどの工具素材と相性が良いため、加工中に発生する切り粉が刃先に付着しやすく、これが切れ味の低下や仕上がり品質の悪化を引き起こすことがあります。
さらに、切れ味の低下により加工時の発熱が増加し、工具の損傷を招く原因にもなります。
そのため、溶着を防ぎ、加工熱を抑えるためには、クーラントや切削液を適切に使用することが重要です。
耐熱性が高い
一般的に金属は高温環境下で、材料内部の原子間距離が広がることによって熱膨張が起こり、その結果として強度が低下します。
しかし、インコネルはこの現象が他の金属や合金に比べて抑えられており、高温でも強度の低下が少ないのが特徴です。
インコネルの種類にもよりますが、高い強度を維持できる温度はおおよそ700度とされています。
まとめ
インコネルは耐熱性・耐腐食性に優れたニッケル基合金で、加工が難しい材料として知られています。
特に加工硬化しやすく、刃先への溶着や発熱が発生しやすいため、工具や加工条件の最適化が重要です。
工具は耐摩耗性の高いコーティング超硬合金を使用し、多刃工具や強ねじれ刃、ポジティブすくい角の採用で切削性を向上させます。
さらに、高回転数での加工と十分なクーラント使用が、熱の蓄積防止と工具寿命の延長に効果的です。
重要ポイント
- 耐摩耗性に優れたコーティング超硬工具を選定
- 多刃工具・ポジティブすくい角で切削性向上
- 高回転数とクーラントで発熱・溶着防止
- スイートスポットを狙った精密な加工条件設定
- 加工硬化を考慮し、適切な切削負荷を維持
株式会社フラスコでは、昭和48年の創業依頼、一般産業用機械部品の設計・製作・組立をはじめ、チタンやタングステン、ジルコニウムなどの金属加工を行なってきました。
時代にニーズに合わせ、最新鋭の設備と創業から約40年間培った、難削加工を可能とする職人の加工技術で様々な製品を生み出しています。
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