【エルビウムとは?】エルビウムのすべてがわかる!特性から応用、将来性までを徹底解説
「エルビウムとは?」
「エルビウムって、どんな元素なの?」
「エルビウムはどう役立っているの?」
そんな疑問に答える記事になっています。
この記事でわかること
•エルビウムの基本データ
•エルビウムの化学的特徴
•エルビウムの身近な活躍例
•エルビウムの供給リスクとリサイクル技術
•エルビウムの最前線研究と将来の展望
エルビウムは、普段の生活では名前を聞く機会が少ない金属です。
しかし、エルビウムはインターネット通信や医療レーザー、着色剤など、様々な場所で活躍する金属です。最近では、量子コンピューターや再資源化の研究でも注目されており、「未来を支える素材」として世界中の研究者から関心が集まっています。
一方で、その供給は特定の国に大きく依存しており、リサイクルもほとんど進んでいないという課題も。だからこそ、私たちがどんなテクノロジーを選び、どう使っていくのかが、これからの社会に影響を与えます。
本記事では、エルビウムの性質から応用、供給問題、そして最前線の研究動向までをやさしく解説します。
この記事を読み終えるころには、エルビウムがいかに私たちの生活と深く関わっているかがわかり、ニュースや製品の見方が少し変わっているでしょう。
それでは、身近な技術を支える金属・エルビウムの知られざる役割を、いっしょに見ていきましょう。
この記事の監修者

藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士

目次
エルビウムの基本概要

まず、エルビウムという元素が何者なのか、名前や仲間、注目される理由を押さえましょう。
エルビウムは光を強くする金属
エルビウムは、周期表で68番目に位置する希土類(きどるい)元素です。
この元素の持つ“イオン”という小さな粒は、特定の波長の光(およそ1.55マイクロメートルの赤外線)を増幅するという特徴があります。
この波長は、インターネットの光ファイバー通信に最も適した範囲です。
たとえば、海底ケーブルでは、ガラスの中にごく少量のエルビウムを加えることで、遠くまで届くうちに弱くなった光信号を何千倍にも強く復元することができます。その結果、私たちは大陸間でも安定した高速通信を利用できています。
このように、エルビウムは光通信の要であるだけでなく、量子コンピューターや医療用レーザーなど、最先端の技術分野でも欠かせない重要な金属なのです。
エルビウムの元素データ

エルビウムの元素記号や原子量、酸化数などの基礎データを見てみましょう。
元素記号Erと電子配置[Xe]
エルビウムは、「Er」という記号と特別な電子の並び方([Xe]4f¹² 6s²)を持っています。
だからこそ、赤外線の光をとても鋭く出せます。
たとえば光ファイバーの中に少し混ぜるだけで、弱くなった通信信号を強くできるのです。
標準原子量
エルビウムの原子量は167.259です。
安定した同位体でできているので、測ったときに数字がほとんどブレません。
そのおかげで、工場や研究室では「計算がズレたら困る!」という場面でも安心して使えます。
安定した重さは、エルビウムの使いやすさを支える大事なポイントとなっています。
主要酸化数
エルビウムが化合物になるときの代表的な電気の持ち方は+3(プラス3価)です。
この状態だとイオンがとても安定し、ガラスやセラミックに入れても性質が変わりにくく、きれいに光ります。
だから光ファイバー増幅器や蛍光体に重宝されるのです。
つまり、「+3」でいるからこそ、エルビウムは安全に、そして確実に私たちの役に立てるのです。
エルビウムの物理化学的特徴

エルビウムが示す色、磁性、酸化しにくさ。
これらの性質が、どうして応用に直結するのかを解説します。
「性格」を知れば、用途の広がり方が見えてきます。
淡いピンク色の酸化物を形成
エルビウムを空気中で熱すると、やさしいピンク色の粉(酸化エルビウム)ができます。
これはエルビウムの中にある電子が、可視光の一部を吸収して残りの光をピンクに見せるためです。
たとえば、ガラスにほんの少し混ぜるだけで、高級サングラスや照明カバーに温かみのあるピンク色を出せます。
エルビウムは、光学やデザインの世界でも重宝されているのです。
空気中で比較的酸化しにくい
エルビウム金属は、ほかの希土類金属よりさびにくいのが強みです。
表面にすぐ薄くてかたい酸化膜ができ、酸化膜が内側を守るバリアになるため、酸化が遅く進みます。
このおかげで、研究室でも特別なガスを用意せずに量れたり、工場でも扱いやすかったりします。
要するに、取り扱いが楽だからこそ、エルビウムは多くの現場で使いやすい金属なのです。
高いパラ磁性を示す
エルビウムイオンにはペアになっていない電子がたくさんあり、強いパラ磁性(磁石に引かれる性質)を示します。
温度が下がるほど磁力はさらに強くなるため、磁気冷凍機の部品や、光を一方通行にする装置(光アイソレータ)の材料として活躍中です。
また、電子のスピンを利用する次世代技術「スピントロニクス」にも期待が集まっています。
エルビウムの強い磁気は、未来の電子機器や省エネ技術を支えるカギになるのです。
エルビウムの歴史

発見の舞台となったイッテルビー鉱山から命名の由来、そして分離に挑んだ化学者たちの奮闘まで。エルビウム誕生の物語を振り返ります。
名前の由来と発見者
エルビウムの名前は、スウェーデンにあるイッテルビー鉱山にちなんでいます。
発見者は化学者カール・グスタフ・モサンダーです。
19世紀初め、この鉱山から採れた鉱石をモサンダーが詳しく調べたところ、当時知られていなかった淡い赤色の酸化物を取り出すことに成功しました。
1843年、彼はその酸化物を「エルビア」と名付け、これが後に元素「エルビウム」として認められました。
イオン交換などの分離技術がまだ未発達だった時代に、新しい元素を見つけるのは大きな挑戦でしたが、この発見が希土類化学の研究を大きく前進させました。
つまり、エルビウムという名前には「発見の地」と「先人の努力」という二つの歴史的な物語が刻まれているのです。
エルビウムの供給と市場

「欲しくても手に入りにくい」そんな希少金属ならではの課題を整理します。どこで産出され、どのようなリスクが潜むのかを把握しましょう。
産出国と供給状況
エルビウムを含む重希土類金属は、掘り出しから加工まで中国への依存度がとても高く、供給のほとんどを中国に頼っているのが現実です。
希土類金属全体で見ても、中国が世界生産の大部分を占めており、原料をきれいに分ける精製作業についても中国が圧倒的なシェアを持っています。
しかも、中国政府は「この時期にはこれだけ作る」と生産量を決めたり、「外国にはこれだけしか売らない」と輸出制限をかけたりするため、世界中の会社がその影響を受けて、値段が急に上がることもあります。
だからこそ、いろいろな国から材料を手に入れられるようにすること(=サプライチェーンの多元化)が、今とても大事な課題になっています。
リサイクル率が低く供給リスクがある
エルビウムは、リサイクルがほぼ進んでいません。
製品に含まれる量がごくわずか(100万分の1レベル)で、分けて集めるのにお金がかかり過ぎるからです。リサイクル率は1%未満といわれています。
もし供給トラブルでエルビウムの値段が急に上がったら、通信機器や医療レーザーのコストも跳ね上がり、製品価格が高くなるおそれがあります。
当面は代わりになる材料を研究したり、必要分を多めに在庫しておいたりして、リスクに備える必要があります。
エルビウムの主な用途
医療レーザーから光通信、着色剤まで、私たちの生活を影で支えるエルビウムの活躍シーンを、具体例とともに紹介します。
医療用Er:YAGレーザーに利用される
エルビウムは、体への負担が少ないレーザー治療を実現します。
エルビウムを入れた結晶(Er:YAG)が出す 2940 nmの光が、人の体に多く含まれる水に強く吸収されるからです。
たとえば皮ふ科では、ほくろやシミを周りの肌をほとんど傷つけずに削れますし、歯医者さんでは虫歯の部分だけを素早く削り取れます。
つまり、エルビウムのおかげで「よく効くのに痛みが少ない」レーザー治療が広がっているのです。
光ファイバー通信の増幅器に欠かせない
エルビウムは、インターネットを速く遠くまで届ける立役者です。
理由は、エルビウムイオン(Er³⁺)が1550 nm付近の光をそのまま何千倍にも強くできるから。ここは光ファイバーでいちばん信号が弱まりにくい波長です。
実例として、大陸間を結ぶ海底ケーブルでは、ガラスの中にエルビウムを数ppm混ぜた「光増幅器」が数十キロごとに置かれ、弱った信号を復活させています。
要するに、エルビウムなしでは、今の高速・大容量のネット回線は成り立たないというわけです。
ガラスやセラミックスの着色剤になる
エルビウムは、安全で上品なピンク色を生む着色剤としても活躍します。
なぜなら、エルビウムイオンが可視光の一部を吸収し、やわらかなピンク色を出すからです。
たとえばサングラスのレンズや陶器の釉薬に0.5 %ほど加えるだけで、有害なコバルトなどを使わずに温かみのある色合いが出せます。
つまり、エルビウムはデザイン面でも価値を生み出す金属なのです。
原子炉制御材や合金添加材でも活躍
エルビウムは、目立たないところでも活躍しています。
酸化エルビウムは中性子をよく吸収して原子炉の反応をおだやかにできるので、金属に少量加えると結晶を細かくして強度を上げられます。
原子炉の燃料ペレットに微量のエルビウムを混ぜると、発熱が暴走しにくくなります。また、ジェットエンジン用の高温合金に加えると、長時間の高熱でも変形しにくくなります。
このように、エルビウムは私たちが気づかないところでエネルギー供給を助け、航空の安全も守っているのです。
エルビウム研究の最前線と将来の展望

量子技術やリサイクル革新など、エルビウムにまつわる最新トピックをピックアップ。未来を切り拓く研究の方向性について整理しました。
量子情報プラットフォームでのエルビウムイオン
エルビウムは未来の量子コンピューターや量子通信にとって大きな味方です。
エルビウムイオンは、低い温度で電子の向き(スピン)を長い時間そのままに保てるため、量子情報を消えにくくできます。
特殊な結晶の中にエルビウムを少し入れ、光を閉じこめる“フォトニック結晶”と組み合わせると、光と電波(マイクロ波)を変換できる小さな装置が作れます。これが実現すれば、都市と都市を結ぶ量子ネットワークで信号をほとんど失わずに送れるようになります。
つまりエルビウムは、「量子通信の未来」を作るカギとして、世界中の研究者から注目されているのです。
循環型リサイクル技術の開発動向
エルビウムは、使い終わった機器から上手に取り出す方法を急ピッチで開発中です。
今はリサイクル率が1%未満で、中国依存の供給リスクが高いため、資源を国内で回せるようにすることが急務だからです。
役目を終えた光ファイバー増幅器(EDFA)を細かく砕き、クエン酸などの弱い酸で溶かしてから、有機溶媒を使ってエルビウムだけを選んで取り出す湿式プロセスが試験されており、2030年までにリサイクル率を5%に上げる目標が掲げられています。
よくある質問
エルビウムについての説明を読んで、「本当にそんなに重要なの?」「代わりはないの?」と疑問に感じた方もいるかもしれません。
ここでは、よくある疑問にお答えします。
Q. 供給リスクがあるなら、むしろエルビウムに頼るべきではないのでは?
A. 中国依存というリスクはありますが、リスクを管理しながら活用する戦略が現実的です。
中国は、エルビウムを含む希土類の世界供給において圧倒的なシェアを持っており、特に重希土類では9割以上が中国由来です。
このため、各国はサプライチェーンの多元化や代替技術の研究、戦略的備蓄といったリスク対策を進めています。
つまり、エルビウムの価値を認めたうえで、供給不安に備える体制づくりが進行中なのです。
Q. 代替技術は本当に実用化できているのか?
A. 実用化はこれからですが、技術の目処は立っており、進化を続けています。
現在のところ、エルビウムの代替やリサイクルは限定的ですが、技術開発は着実に進んでいます。
たとえば、湿式プロセスを用いた電子機器廃棄物からの回収技術では、最大95%の回収率が報告されています。
また、バイオ抽出やプラズマ分離など次世代技術も研究中です。2030年を目標にリサイクル率向上の動きが加速しており、今後の実用化に期待がかかっています。
Q. 代替できるなら、そんなに重要な素材ではないのでは?
A. 用途によっては代替できません。だからこそ、今も重要なのです。
確かに、希土類元素には似たような特性を持つものも多くありますが、エルビウム特有の機能も存在します。
特に、光通信の1.55マイクロメートル帯の光を増幅できる性質や、医療用Er:YAGレーザーに適した波長などは、他の元素では代用が困難です。
「代替できる用途もある」が「すべて代替できる」わけではなく、エルビウムは今も独自の価値を持つ素材なのです。
まとめ:エルビウムなくして未来なし
最後にもう一度、エルビウムの重要なポイントを整理しておきましょう。
- 光通信や医療レーザーに使われる、希土類元素(原子番号68)
- 赤外線(1.55μm)を増幅する性質が、光ファイバー通信の要
- 淡いピンク色の酸化物で、ガラスや陶器の安全な着色剤になる
- 医療レーザー、原子炉制御材、高温合金など産業利用が広範囲
- 強いパラ磁性を持ち、スピントロニクスや光アイソレータにも期待
- 供給の9割以上を中国に依存、リサイクル率は1%未満と低い
エルビウムは、通信・医療・エネルギー、そして量子技術といった、私たちの暮らしや社会を根本から支える欠かせない存在です。一見目立たない素材でありながら、その持つ力は、情報をより速く、治療をよりやさしく、エネルギーをより効率的に、そして未来の量子ネットワークを現実のものにしていく、まさに時代を切り拓く原動力になり得ます。
たしかに、供給リスクという課題はあります。しかし今、それに立ち向かうためのリサイクル技術や代替戦略が世界中で加速度的に進化しています。研究者たちは、限りある資源を未来へとつなげる持続可能な道を、本気で模索しているのです。
もしこの小さな元素が、地球の裏側とリアルタイムでつながる世界を可能にし、手術の精度を高め、環境負荷を減らす技術を支えるとしたら。それは、未来をもっと希望のあるものへと変えていく一歩になるはずです。
エルビウムは、そんな未来を現実にするポテンシャルを秘めた「希望の素材」です。日常の中に隠れている科学の力に目を向ければ、あなたの世界の見え方もきっと変わるはずです。
株式会社フラスコでは、昭和48年の創業依頼、一般産業用機械部品の設計・製作・組立をはじめ、チタンやタングステン、ジルコニウムなどの金属加工を行なってきました。
時代にニーズに合わせ、最新鋭の設備と創業から約40年間培った、難削加工を可能とする職人の加工技術で様々な製品を生み出しています。
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