コンスタンタン加工完全ガイド - “電気特性を守って通す”現場手順
精密部品の加工するにあたり、コンスタンタンほど「一筋縄ではいかない」材料はないと思われます。特にこの材料と格闘する業者さんも少なくはないでしょう。
「また刃がダメになった...」「今度はタップが折れてしまった」「思うように加工できない」
こんな声が全国の工場の至るところから聞こえてきそうです。
コンスタンタンは見た目こそ普通の金属ですが、いざ加工してみると予想外の難しさに直面してしまう素材だからです。
この記事の監修者

藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士

目次
コンスタンタンって結局どのような素材なのか?

コンスタンタンは銅とニッケルの合金で、主に温度測定や精密抵抗として使われています。最大の特徴は温度が変わっても電気抵抗がほとんど変化しないことが「コンスタント(一定)」な材料と呼ばれる理由です。
しかし、この便利な特性の裏には加工泣かせの性質が随所に隠れています。
組成の話(実際の材料を見てみると)
よく見かけるのはCN-49と呼ばれるグレードです。銅が約55%、ニッケルが約45%の配合になっています。線材、薄板、箔状など様々な形で供給されていて、それぞれで加工のコツが変わってくるのが厄介なことで知られています。
材料証明書を見ると「抵抗率:49×10⁻µΩ·cm(マイクロオーム・センチメートル)」このような数値が並んでいますが、現場で重要なのはむしろ「この数値を加工後も維持できるか」というところです。
加工で困る理由を現場目線で説明
コンスタンタンが加工し辛い理由は大きく3つあります:
- 熱がこもりやすい - 銅ほど熱伝導が良くないので、切削点に熱が溜まって刃がヘタる
- 加工硬化しやすい - 少しでも擦ってしまうと硬くなって、さらに切りにくくなる悪循環
- 切粉が長くなりがち - ねばっこい切粉が出やすく、絡まって表面を傷つける
これらが重なると、せっかく精密に加工しても電気特性が変わってしまう可能性があります。
加工現場から学べること

旋盤作業での失敗と対策
φ10 mmのコンスタンタン丸棒を旋盤で仕上げる際に、黄銅と同じ要領で荒く切削すると、表面が急速に荒れ、製品としては使えない仕上がりになります。
通常の条件(失敗例):
- 回転数:1200rpm
- 送り:0.2mm/rev
- 切込み:1.0mm
面粗度はRa3.2以上、寸法もバラバラになってしまいます。
見直し後の条件(成功例):
- 回転数:600rpm(半分に落とした)
- 送り:0.15mm/rev(少し下げた)
- 切込み:0.3mm(浅くした)
- クーラント:たっぷりと切削点に直撃
これだけでRa1.6程度まで改善します。ポイントは「無理をしない」ことです。
参考:銅ニッケル合金の製造
フライス加工での苦労
小さなコンスタンタンのブロックに溝加工を施すのは、非常に手間がかかります。
φ6のエンドミルでいきなり深い溝を掘ると、工具が折損するだけでなく、材料にも傷が入り廃材になる恐れがあります。
加工時の注意点:
- 一度に深く切り込まず、0.5mm程度ずつ加工する。
- 切粉の排出を常に意識するようにする。
- 異音がしたらすぐ止めることを意識する。
特に切粉の排出は重要で、エアブローやクーラントの角度を工夫するだけで全然違うようになります。
穴あけとタップの鬼門
コンスタンタンの穴あけとタップは通常よりも神経を使います。M3のタップを立てる際には、何度も折ってしまうケースもあります。例:(2.5mm→2.55mmなど)
タップ折れを防ぐコツ:
- 下穴は気持ち大きめに - 規格値の上限近くを狙う
- 潤滑は惜しまない - タッピングオイルをたっぷり
- 3回転進んだら1回転戻す - 切粉排出を確実に
- 無理な姿勢で作業しない - 下向きでの作業は避ける
特に薄い板材では、裏から支えを入れてバリを抑えることも大切となります。
材料形態別の攻略法

線材の扱い方
コンスタンタン線は曲げ加工がメインになります。しかし、曲げ半径を間違えると割れてしまいます。
実際の結果:
- φ1.0mm線材の場合、最小曲げ半径は3mm程度が好ましいです(メーカー規格では安全率を見て4〜5倍径を推奨しています)。
- それより小さいと表面にマイクロクラックが発生する可能性があります。
- 端末処理は圧着端子が一番安全です(はんだ付けは熱で特性変化のリスクがある)。
薄板加工のノウハウ
t=0.5mmのコンスタンタン薄板をレーザーカット加工する場合、熱影響部の変色が課題となるでしょう。
対策として、
- 低出力で複数パス
- アシストガスの流量を上げる
- カット後の洗浄処理を徹底
また、打ち抜き加工では、ダイクリアランスを通常より大きめに取ることでバリを抑えられます。
箔・薄膜の微細加工
微細加工案件では、t=0.1mmのコンスタンタン箔にパターンを作る作業がありますが、これはもう機械加工では限界があり、フォトエッチングに頼ることになります。
エッチング加工での注意点:
- マスクの密着性が命
- エッチング液の温度管理
- 残渣の完全除去
接合技術の選択基準

コンスタンタンと他の材料を接合する時は、温度管理が何より重要となります。
実際の接合事例
ケース1: 銅線との接続
- 方法:圧着端子
- 理由:熱を加えたくなかったため
- 結果:抵抗値の変化ほぼなし
ケース2: 基板への実装
- 方法:低温はんだ(Sn-Bi系)
- 温度:150℃、10秒以内
- 結果:満足できる接続強度と導電性
ケース3: 筐体への固定
- 方法:スポット溶接
- 条件:短時間・低電流
- 結果:局所的な加熱で特性変化を最小化
失敗から学ぶ
普通のSn-Pb系はんだ(融点約220℃)を使うと、接合部の抵抗値が予想以上に変化してしまうため、温度と時間の管理がいかに重要かを痛感することになるでしょう。
参考:低温はんだとは…
品質管理の実際

測定環境の整備
コンスタンタンの電気測定は環境条件が結果を左右します。
例えば、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)の資料では、以下の条件が推奨されています。
- 室温:20±1℃(エアコンによる管理)
- 湿度:50±5%
- 測定前の馴染み時間:15分以上
- プローブ圧:50gf程度
これらの条件を守ると、測定値のばらつきが半分以下になるとされています
工具管理の工夫
コンスタンタン専用として、以下の工具を分けて管理するのがおすすめです
- ドリル:WC系、シャープな刃先重視
- エンドミル:小径はハイス、大径は超硬
- タップ:チタンコーティング品を使用
- バイト:ノーズR0.4mm以下、正面角度75°
工具の使用回数と交換タイミングも記録しておくことで、これが後々の品質安定に効いてくることに気づくでしょう。
トラブルシューティング

よくある不具合とその対処法
問題1: 加工面の変色
- 原因:過度な発熱
- 対処:切削速度を30%ダウン、クーラント流量アップ
- 結果:変色なし、抵抗値も安定
問題2: 寸法精度の悪化
- 原因:工具摩耗の見落とし
- 対処:50個ごとに中間測定を実施
- 結果:±0.01mm以内を安定維持
問題3: タップのピッチずれ
- 原因:切粉詰まりによるタップの浮き上がり
- 対処:リトラクトサイクルの頻度を2倍に
- 結果:ねじゲージの通りが改善
外注先との協力体制

自社で対応困難な形状は外注に頼むこともありますが、その際の注意点をまとめておきます。
外注先選定のチェックポイント
- 設備の確認: 温度管理された作業環境があるか
- 実績の提示: 同様材料での加工事例
- 検査体制: 電気特性まで測定可能か
- 試作対応: 小ロットでの条件出しに対応してくれるか
図面指示の工夫
外注図面には必ず以下を記載しています:
- 材質記号(CN-49等)
- 温度管理の要求(室温20±2℃での測定)
- 禁止事項(高温での乾燥処理等)
- 抵抗値の参考データ
まとめ:現場で意識し大切にしてほしいこと

コンスタンタン加工で一番大切なのは「急がば回れ」の精神です。ちょっと時間がかかっても、条件を丁寧に出して、測定を怠らずに進めることが結果的に一番の近道になります。
「この材料は気難しいから嫌だ」と敬遠する人が多いかもしれませんが、逆に言えばコツを掴めば差別化になります。コンスタンタンを上手に加工できるようになれば、精密部品の仕事では重宝される存在になれるはずです。
これからの展望
IoT機器の普及で、コンスタンタンを使った精密センサーの需要はまだまだ伸びそうです。今のうちにしっかりとしたノウハウを蓄積しておけば、将来的にも競争力を保てると考えても間違いではないでしょう。
条件や数値は参考値として活用し、実際の作業では安全第一で進めてください。
株式会社フラスコでは、昭和48年の創業依頼、一般産業用機械部品の設計・製作・組立をはじめ、チタンやタングステン、ジルコニウムなどの金属加工を行なってきました。
時代にニーズに合わせ、最新鋭の設備と創業から約40年間培った、難削加工を可能とする職人の加工技術で様々な製品を生み出しています。
他社には負けない、業界トップクラスの技術があります。
お問い合わせは無料なので気軽にご連絡ください。