タングステン加工の基本とプロの秘訣|特徴や用途についても解説
タングステンはその圧倒的な特性により、多様な産業分野でその価値を発揮しています。
高い融点と硬度を誇るこの金属は、耐熱性と耐摩耗性に優れ、切削工具やドリルの製造から電球のフィラメント、さらには放射線遮蔽材としてまで広く使用されています。
しかし、その加工は困難を極めます。
この記事では、タングステンの旋盤加工から板金加工、さらには高度な接合技術に至るまで、その加工方法と挑戦について詳細に解説していきます。
タングステン加工の技術的側面や、実際に産業でどのように応用されているかについて学び、この重要な素材の可能性をさらに深く探求しましょう。
この記事の監修者
藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士
目次
タングステンとは
タングステンはレアメタルの一種であり、体心立体格子結晶を持っている特徴があります。
タングステンはすべての金属のなかで1番融点が高く、温度は3,410℃です。
さらに、熱膨張率が低いことから、高温耐変形性に優れています。
また、金属として比較的大きな電気抵抗があるため、2,000℃を超える炉のヒーター材料としても有効です。
さらに、高速の電子線が照射されるとX線を発生させる特性もあります。
タングステンの欠点は、硬いことから「加工作業性が悪い」とされています。
タングステンの用途
タングステンの用途は以下のとおりです。
- ドリル
- 軍事製品
- フィラメント
- 切削工具
順番に解説します。
ドリル
高速度鋼は、タングステンと鉄の合金であり、ドリルの製造に広く使用されています。
この合金は高温での作業に耐えるために設計されており、通常はコバルトやニッケルなどの金属が添加されています。
これらの添加物は、金属が高温にさらされる際に軟化したり、摩耗したりするのを防ぎます。
このようにして、ドリルや他の金属加工ツールが高温下での作業に適した耐久性を持つように合金が作られます。
軍事製品
タングステンはその比重の重さや金属的な安定性、融点の高さから軍事的な利用において活かされます。
フィラメント
かつて、電球のフィラメントとしてはその高い電気抵抗のために頻繁に使用されていました。
しかし、LED電球の登場と普及により、フィラメントとしての使用は減少傾向にあります。
切削工具
切削工具の製造には、「超硬合金」と呼ばれる素材が使用されます。
これは、炭化タングステンとコバルトを混ぜ合わせて焼成することで作られ、その特異な硬度により優れた耐摩耗性を持つ工具として活用されています。
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タングステンの特徴
タングステンの特徴は以下のとおりです。
- 熱膨張係数が小さい金属
- 衝撃に弱い
- 耐熱性が高い
- 高密度なため加工が難しい
- 大きな電気抵抗を有する
- 鉄や鉛に比べて重たい
- 放射線遮蔽能力が高い
順番に解説します。
熱膨張係数が小さい金属
タングステンは熱膨張が非常に小さい金属であり、これがその特徴の1つです。
たとえば、アルミニウム鋳造用金型の本体には通常ダイス鋼(SKD61)を使用しますが、摩耗しやすい部品にはタングステンを選択することがあります。
しかし、これらの二つの金属の熱膨張係数が異なるため、金型を加熱すると、徐々に境界部分に隙間が生じ始めます。
この隙間にアルミニウムが溶けて流れ込むことがある問題が発生します。
衝撃に弱い
タングステンは高温環境での耐久性や摩耗に強い素材ですが、一方で衝撃には非常に弱い特性があります。
例えば、ハンマーなどで部品を叩いて外そうとすると、タングステンの部品は簡単に壊れてしまうことがあります。
耐熱性が高い
タングステンは金属の中でも最高の融点である3422℃を持つため、その耐熱性は非常に優れています。
この特性から、タングステンは熱処理炉などの超高温環境で広く使用されています。
また、タングステンは熱膨張率が非常に低いため、超高温下でもその形状を安定させられる利点があります。
これらの特徴は、タングステンを超高温でのアプリケーションに適した材料として位置づけています。
高密度なため加工が難しい
タングステンは非常に高い金属密度(比重)を持ち、ほぼ金と同じくらいの密度があります。
これが「重い石」というスウェーデン語の名前の通り、タングステンが非常に重い金属であることを示しています。
金属密度が高いため、タングステンは放射線を遮へいする能力に優れています。
鉛も同様に放射線遮へい材料として使用されますが、タングステンはその代替材料として環境への負荷が少なく、さらに放射線遮へい能力が高いため、医療分野でX線CTなどに広く利用されています。
さらに、タングステンは硬度が非常に高い特性も持っています。
特にタングステン炭化物であるWC(タングステンカーバイド)は非常に硬く、モース硬度ではダイヤモンドに次ぐランク9に位置します。
この高い硬度のため、タングステンは金属の切削工具として広く使用されており、ドリルや旋盤などの工具として活躍しています。
このように、タングステンは我々の日常生活にはあまり馴染みがないかもしれませんが、工業や医療分野で重要な役割を果たしている多才な金属です。
大きな電気抵抗を有する
タングステンは他の多くの金属に比べて、非常に高い電気抵抗を持っています。
この特性から、タングステンは熱にも強いため、電球のフィラメントとして広く利用されています。
電球のフィラメントは高温で発光する必要があり、タングステンはその高温に耐え、電子の流れを制御するための電気抵抗を提供します。
そのため、古典的な電球やハロゲンランプなどでタングステンが使用されています。
この高い電気抵抗と熱耐性は、タングステンを電気関連のアプリケーションで不可欠な材料として位置づけています。
鉄や鉛に比べて重たい
タングステンの比重は19.3で、金とほぼ同じくらいの密度を持っています。
これは、鉄の2.5倍、鉛の1.7倍の重さに相当します。
タングステンは非常に高い密度を持つため、その重さは金属の中でも際立っています。
この特性から、「重い石」という名前で知られ、その名前通り、非常に重い金属であることがわかります。
放射線遮蔽能力が高い
タングステンは、鉛に比べて非常に優れた放射線遮蔽能力を持っています。
そのため、X線照射機器や放射線治療装置などの遮蔽材として幅広く利用されています。
鉛も放射線遮蔽に使用されますが、タングステンは同等の遮蔽能力を提供するだけでなく、環境に対する負荷が少ないという利点も持っています。
このことから、タングステンは医療分野や産業分野での放射線遮蔽において、鉛の代替材料として広く採用されています。
タングステンの加工方法
タングステンの加工方法は以下のとおりです。
- 旋盤加工
- フライス加工
- タップ加工
- 切削加工
- 板金加工
- 接合加工
順番に解説します。
旋盤加工
タングステンを旋盤加工する際、チップの素材の選択は面粗度に大きな影響を与えます。
たとえば、超硬合金(タングステンカーバイドとコバルトで焼結した材料)のチップを使用すると、チップの先端が鈍く、切りくずが厚く、切削抵抗が大きくなり、結果として加工面の粗さが増します。
一方で、サーメット(チタン化合物とニッケルやコバルトで焼結した材料)のチップを選ぶと、すくい角が大きく、切りくずが薄く、切削抵抗が低くなり、面粗度を改善することが可能です。
要するに、チップ素材の選択は加工結果に影響を与え、超硬合金よりもサーメットのチップを使用することで、より滑らかな加工面を実現できます。
フライス加工
タングステンのフライス加工において、適切な加工方法と条件の設定が重要です。
一般的に、荒加工では湿式(クーラントを使用)を採用し、回転数を低く設定して行います。
これにより、安定した削り取りが可能となります。
しかし、仕上げ加工では乾式(クーラントを使用しない)が一般的です。湿式仕上げ加工では、刃物が滑りやすく、仕上がりの安定性が損なわれる可能性があるため、注意が必要です。
特に硬い材料の場合、ワークが加工中に熱を持ち、加工硬化を引き起こすことがあります。
そのため、適切な加工条件を設定することは非常に重要です。
これによって、タングステンのフライス加工において安定した仕上がりを実現できます。
タップ加工
難削材の中でも、タングステンのような素材をタップ加工する場合、非常に大きな負荷がかかります。
これは、通常のタップが折れやすく、送り速度も制限されるため、加工に非常に時間がかかることがあります。
この問題を解決するために、通常のタップではなく、プラネットカッターという特殊な工具を使用することがあります。
プラネットカッターは、難削材を迅速に加工するのに非常に効果的で、加工時間を大幅に短縮できます。
これは、難削材に対する負荷を減少させ、効率的な加工を可能にするためです。
要するに、難削材であるタングステンのタップ加工において、プラネットカッターを使用することは、加工時間を削減し、生産性を向上させるための効果的な方法と言えます。
切削加工
タングステンの切削加工において、超硬素材やサーメット素材の工具が最適です。
超硬素材を選ぶ際には、硬度と靭性のバランスを考慮し、適切な工具を選定することが大切です。
加工条件については、荒加工時には湿式加工(切削油やクーラントの使用)が適しています。
しかし、仕上げ加工時に湿式加工を継続すると、工具が素材表面を滑りやすくなり、仕上げ面の精度が損なわれる可能性が高まります。
そのため、仕上げ加工には乾式加工(切削油やクーラントを使用しない加工)が適しています。
タングステンは硬度が非常に高いため、工具摩耗が速く進行します。そのため、切削加工を行う際には素早い加工と工具交換のタイミングを見極めることが非常に重要です。このような工程において、適切な工具と切削条件の選択が成功への鍵となります。
板金加工
金属タングステンは、通常、体心立体格子構造を持ち、常温では非常に脆くて硬い性質を示します。
このため、板金加工のような曲げ作業は非常に難しいとされています。
しかし、特定の温度範囲内で加熱することにより、タングステンは延性を持つようになり、加工性が向上します。
一方で、再結晶温度を超えて高温で加熱すると、タングステンの結晶粒子が成長し、組織が大きく変化し、強度と硬度が大幅に低下します。
したがって、板金加工作業において推奨される適切な温度範囲は、脆さから延性への変化が起こり、かつ再結晶温度を超えない、約200℃から500℃の範囲です。
要するに、タングステンの板金加工においては、適切な温度管理が非常に重要であり、この温度範囲内で加熱することによって加工性を向上させられます。
接合加工
タングステンの溶接は、形状に制約があるものの、TIG溶接、電子ビーム溶接、レーザー溶接などの方法で行うことが可能です。
ただし、タングステンは非常に難易度の高い溶接材料であり、特別な設備と作業環境が必要です。
酸化を避けるために専用の雰囲気内での作業が必要であり、溶接後も高温のままで、冷却が終わるまでは大気にさらすことはできません。
これらの厳しい条件下での作業にもかかわらず、割れなどの問題が発生する可能性が高いです。
そのため、タングステンの溶接よりも、一般的には「リベット留め」などの他の加工方法が選ばれることがあります。
また、特定の材料に対しては「ろう付け加工」も適用できることがあります。
要するに、タングステンの溶接は技術的に難しく、特殊な環境が必要であるため、より簡便で効果的な加工方法を選択することが一般的です。
当社のタングステンの加工例
まとめ【タングステンの加工依頼をしましょう】
タングステンは非常に硬く、耐熱性と耐摩耗性が高いため、工業や医療分野で広く使用されています。その高い密度と硬度により、加工が難しい金属の一つです。特に切削や板金加工、接合などでは特別な工具や技術が必要とされます。加工には湿式および乾式の方法があり、適切な温度管理と工具選定が重要です。
重要な点
- タングステンは非常に硬いため、超硬材料の工具を使用する。
- 耐熱性が高く、高温での使用に適している。
- 加工時には湿式加工と乾式加工を適宜選択する。
- 特定の温度範囲で加熱することで加工性を向上させる。
- 難削材であるため、プラネットカッターなど特殊な工具が効果的。
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