コンスタンタン(Constantan)とは|特徴・用途・“なぜ銅+コンスタンタンなのか”も解説
コンスタンタン金属(Constantan)は、仕様書や部品表では見かけることがあるものの、その性質や用途については分かりにくいことがあります。
とりわけ「なぜ銅と組むのか」「記号や色コードが整理しにくい」といった疑問の声も少なくないようです。
そこで本記事では、定義や物性の要点から、接続方法や注意点に至るまでを簡潔にご紹介していきましょう。
この記事の監修者

藤原 弘一
1986年(有)藤原鉄工所(現フラスコ)入社、1992年代表取締役就任。
時代のニーズに適合した最新鋭設備と長年蓄積した職人技的加工技術を融合させ、顧客の信頼を築いた会社。
保有資格:司法書士、行政書士、宅地建物取引主任者、2級小型船舶、4級無線技士

目次
定義・範囲・用語

コンスタンタンとは
コンスタンタンという名称は、constant=一定が語源といわれています。実際、温度が変化しても抵抗値が安定していることから、計測や制御に向いた素材とされています。
英語表記は Constantan(コンスタンタン)、別名は Eureka (ユリイカ)です。
名称は“constant(一定)”にちなみます。
用途は銅との組合せによる熱電対や、安定を狙う抵抗体が中心です。
用語の選択/表記ゆれ
主表記:コンスタンタン金属
英語:Constantan
別名:ユリイカ(Eureka)
熱電対表記:銅‐コンスタンタン
形状:線/箔/薄板
混同回避:時計ブランドは別扱い
辞典・百科の共通定義ハイライト
- 銅‐ニッケル系の抵抗合金
- 温度係数が小さい特性を持っている
- 銅との組合せで熱電対に利用される
- 抵抗体や配線材として採用例がある
- 名称は“constant”が由来
以上を踏まえ、記事全体で用語と表記を統一します。
組成・物性の要点

組成と抵抗率・温度係数
コンスタンタンは、銅にニッケルを加えた合金であり、比較的高い抵抗率を持つことに加えて、温度による抵抗変化が少ないという特徴があります。
これは、温度変化によって電子の散乱が増加しても、抵抗値が急激に変動しにくい性質を備えているためです。
そのため、高い安定性が求められる恒温槽の配線や基準抵抗などに用いられることが多く、精度が重視される場面での使用に適しています。
また、温度が変動する環境下でも測定誤差を最小限に抑えることができるため、非常に実用的な素材といえるでしょう。
参考:コンスタンタン (Constantan ,Cu55/Ni45) 材料の性質
磁性の扱い
コンスタンタンの磁性は、実務では非磁性から弱磁性の範囲にとどまるとされ、設計時もその前提で扱われることが多いです。
ただし、強い磁場がかかる環境では、残留磁化の有無を事前に確認する必要があります。
また、周囲に強磁性のねじやフレームがある場合には、磁場の影響を受けにくくするために、配線のループをできるだけ小さくし、部材との距離を十分に確保することが重要です。これにより、磁気による信号の乱れや誤作動のリスクを軽減できます。
融点/耐熱・測定温度上限/外観の色
融点、耐熱性・測定温度の上限、外観の色は、それぞれ別の要素として扱う必要があります。というのも、材料が耐えられる温度と、熱電対として実際に運用できる上限温度とは一致しないためです。
さらに、素線の径や保護管の有無、使用される雰囲気によっても、適用できる温度範囲は変わってきます。また、外観の金属色についても表面処理や酸化状態などによって変化するため、識別の基準としては推奨されません。
したがって、運用上の上限温度は仕様や規格に基づいて判断することが重要であり、外観の色だけで識別することは避けるべきです。
供給形状(線/箔/薄板)と基本加工の注意
- コンスタンタンの供給形状には、線材・箔材・薄板などがあり、それぞれの加工に応じた段取りで品質を保つ必要があります。
- 線材の場合は、曲げによる断線や応力集中を防ぐため、最小曲げ半径を確保することが重要です。また、加工前には端面のバリを除去し、脱脂処理を行っておきます。
- 箔材については、エッチング後に中和・洗浄を実施し、さらに治具を使って面圧を均一に保つことで、性能のばらつきを抑える工夫が求められます。
- いずれの形状でも、加工工程の前後には脱脂→乾燥→導通確認といった基本処理を行い、微小な欠陥や汚染によるトラブルを未然に防ぎます。
代表的な用途

熱電対・補償導線
熱電対や補償導線の分野では、T型=銅(+)×コンスタンタン(−)の組み合わせが、定番として広く使用されています。特にT型は、低温域における起電力の安定性に優れており、基準点の温度管理がしやすいという特長があります。
そのため、実験や計測用途において重宝されており、実際には恒温槽の基準プローブや、環境試験での温度測定などに数多く採用されています。
また、補償導線を延長する場合には、同一種類の材質で統一することが基本となります。さらに、誤接続を防ぐためにも、対記号や極性を事前にしっかりと確認しておく必要があります。
加えて、規格によって導線の配色が異なる点にも注意が必要です。色だけを頼りに判断するのは避け、まずは記号や極性の刻印を確認し、色はあくまで補助的な要素と捉えるのが安全です。
参考:熱電対
抵抗体・配線
コンスタンタンは温度係数が小さいため、抵抗値の変動が抑えやすく、基準抵抗やシャント、計測器内部のリード線など、高い精度が求められる配線用途でその特性が活かされます。
特にこうした用途では、半田付けがドリフト(抵抗値の経時変化)の原因となる場合もあるため、撚り線に圧着を施したり、導電性接着剤を用いたりして接点を形成するケースが多く見られます。
さらに、配線自体の安定性を高めるためには、等温環境の確保や機械的応力の緩和を意識した取り扱いが重要です。
また、延長配線を行う際には、異種金属との接続を避けることで、熱起電力や接触抵抗による誤差の発生を未然に防ぐことができます。
身近な使用例
- 研究室の恒温槽プローブ
- T型熱電対の延長リード
- 評価治具のシャント抵抗
- 計測器内部の基準抵抗
- DIY温度ロガーの入力線
- 環境試験装置の温度取り
- 教育キットの熱電対教材
- 電池評価の温度プローブ
熱電対に強い理由

銅‐コンスタンタン熱電対は、異なる材料の電気的性質と接点の温度差を利用して電圧を生み出す仕組みを持っており、その構造や動作原理については以下の表にまとめています。
項目 | 説明 |
材料構成 | 銅(+) + コンスタンタン(−) |
セーベック係数の差 | 銅とコンスタンタンの間に一定の差がある(起電力の源) |
測温接点 | 高温側(例:100℃)に設けられる温度測定用の接点 |
基準接点 | 低温側(例:25℃または氷水0℃)に設けられる基準温度の接点 |
起電力の発生原理 | 2点間の温度差に比例して、一定の電圧(熱起電力)が発生 |
出力の特性 | 直線性が高く、低〜中温域で安定した電圧出力が得られる |
用途例 | 恒温槽の温度測定、環境試験、温度ロガーなど |
※ 銅とコンスタンタンは、セーベック係数の差が温度によって大きく変動しにくいため、安定した起電力が得られます。これがT型熱電対が低温域に強い理由です。
銅‐コンスタンタンの組み合わせが熱電対に選ばれる理由
なぜ銅‐コンスタンタンの組み合わせが熱電対として広く用いられているのかを、ここで簡潔に説明します。
この2種類の金属はセーベック係数の差が一定に近いため、温度差に比例した安定した起電力が得られるという特性があります。
たとえば、測温側が100℃、基準側が25℃であれば、その差に応じて一定の電圧が発生します。
なお、配線途中に余計な温度勾配が生じると誤差につながるため、等温接点を意識した取り回しが重要です。
このような性質により、銅‐コンスタンタン熱電対は温度と電圧の関係が読み取りやすく、安定性にも優れているため、実用性が高いとされています。
熱電対の基礎:K/J/T型の位置づけと特徴
熱電対の基礎を理解するうえでは、各型の役割と特性を把握することが最初のステップとなります。
なかでも T型(銅‐コンスタンタン)は、低〜中温域において直線性と安定性に優れており、精密な温度管理が求められる場面で効果を発揮します。
一方で、J型(鉄‐コンスタンタン)は中温域を中心に使用されており、特に還元雰囲気下の装置などで採用されることが多く見られます。
さらに、汎用性を重視する場合には、K型(クロメル‐アルメル)が適しています。
この型は、幅広い温度域に対応できるため、多様な用途で活用されるのが特徴です。
このように、各型にはそれぞれ異なる特性と適用範囲があります。
したがって、使用環境の温度域や求められる精度に応じて、適切な型を選定することが重要です。
対記号・色コードの早見表
熱電対の接続においては、対記号・極性・色コードの順に照合することが基本とされています。
これは、JIS・IEC・ANSIといった各種規格によって配色が異なるためであり、色だけに頼った識別では誤接続のリスクが高まるからです。
そのため実務ではまず、プラグに刻印された極性記号を目視で確認し、そのうえで採用規格に対応した色表を参照するという手順が一般的です。
特に初回の接続時には、氷水など既知の温度点を用いて電圧の正負を確認することで、配線の取り違いを未然に防ぐことができます。
安全性と信頼性の確保という観点からも、色だけを基準にするのではなく、必ず対記号と極性を優先してチェックすることが重要です。
規格観点:素線径別の常用限度/許容差の見方
熱電対の仕様を確認する際には、規格表をどの順番で読み解くか、そしてその内容を正しく理解することが重要です。
一般的には、等級・素線径・使用雰囲気の順に照合していくのが基本となります。
特に注意すべきなのが、許容差の記載方法です。
「±℃」または「測定値の±%」といった表現が使われており、これは採用する製品の等級に応じて適切に解釈しなければなりません。
さらに、素線の常用限度は素線径だけでは決まらず、保護管の有無や使用される環境の雰囲気によっても左右されます。
このため、設計段階では規格に記載されたカタログ値を鵜呑みにせず、十分な安全マージンを確保したうえで、実機にての再確認が必要です。
また、単位系の違いにも注意が必要です。
誤った判断を避けるためにも、不明な場合はまず表記単位をそろえることから始めるのが確実といえるでしょう。
実務:極細線・箔の“非溶接”接合と取り回し

撚り+圧着
撚り+圧着は設備が少なくても再現性が出やすい方法です。
理由は、金属面の密着と機械固定で接触抵抗を下げやすいからです。
工具: 精密ストリッパー、マイクロフェルール、圧着工具、ルーペ
手順: 皮むき→端面バリ取り→無水アルコールで脱脂→3〜4回の軽い撚り→フェルール挿入→適正ダイスで一撃圧着→熱収縮で応力抜き
確認: 導通安定、軽い引張で抜けなし、被覆のめくれなし
導電接着
導電接着は、はんだ付けなどで熱の影響を避けたい部位に適した接合方法です。
接着剤は、できるだけ薄く、かつ均一に塗布した上で、治具を用いて軽く圧締した状態のまま、メーカー指定の温度と時間で養生を行います。
その後、硬化が完了したら、余分な樹脂を丁寧に取り除き、最終的に保護チューブで覆って仕上げるのが一般的な工程です。
ただし、このプロセスにはいくつかの注意点があります。
たとえば、厚く塗布すると抵抗値が上昇しやすく、また温度勾配の影響によって起電力に誤差が生じる場合もあります。
さらに、曲げ応力が一点に集中すると、接着界面が剥離するリスクも高まります。
そのため、安定した接合を実現するためには、次の3点が重要となります。
「接着剤は最少量に」「等温環境を保つ」「硬化中は確実に固定する」──これらを徹底することで、導電接着の信頼性を高めることができます。
NG集+安全チェック
NG例を先に潰すと手戻りが減ります。
NG: 半田付けで値が漂う、極細線の平つぶし、異種金属で延長、脱脂不足、結束バンドで鋭角曲げ
安全: 溶剤作業は換気と手袋・保護めがね、通電試験は低電圧・短時間、加熱は耐熱マット上
予防: 等温接点の確保、曲げRの管理、ケーブルグランドで引張緩和
検証チェックリスト
検証チェックリストは導通→機械→温度→再導通の順で進めます。
- 導通: テスタで抵抗値の変動が安定
- 機械: 軽い引張・曲げで外観変化なし
- 温度: 氷水→室温→温水でドリフト観察、極性の正負も確認
- 再導通: 室温復帰後に初期値へ戻る範囲
備考:極性刻印の写真、手順と結果の記録、ロット情報のメモを残しておくのがおすすめです。これらを段階的に検証・記録することが、信頼性の確保につながります。
材料の使い分けと比較

用途別おすすめ
用途別おすすめを以下に示します。
- 低〜中温の温度計測=コンスタンタン
- 補償導線の延長=コンスタンタン
- 高温ヒーター=ニクロム
- 高精度基準抵抗=マンガニン
- 低抵抗電源配線=銅
- 長期安定の温度検出=白金系
理由は、抵抗率と温度係数、耐熱の差が目的に影響するからです。
意思決定マトリクス
意思決定マトリクスは精度×温度×用途で整理します。
- 精度優先=マンガニン
- 温度上限優先=ニクロム
- 低抵抗優先=銅
- 低〜中温の直線性=コンスタンタン
- 長期安定=白金系
参考:コンスタンタン (Constantan ,Cu55/Ni45) 材料の性質
なお、雰囲気(酸化・還元)と機械条件(線径・保護管)も仕様決定の要素となります。
よくある選定ミスと回避
よくある選定ミスを短く整理します。
- 低抵抗狙いでコンスタンタン→銅へ切替
- 高温ヒーターでコンスタンタン→ニクロムへ
- 精密抵抗でニクロム→マンガニンへ
- 色だけで型判定→対記号と極性で確認
- 異種金属で延長→同材統一
- 半田で接続→圧着か導電接着
ミスを避けるためのポイントは、目的→特性→規格の順で照合する流れです。
用途に合った材料を探すための検索法

検索語のコツ
検索語のコツは、英語+別名+形状の三点です。
- "constantan wire"
- "eureka foil"
- "constantan strip"
- "CN-49" "6J22"
- コンスタンタン 線/箔
寸法と公差を一緒に入れると命中精度が上がります。
型番の読み:CN-49/6J22
型番の読みは、呼称ではなく数値で照合します。CN-49や6J22は系統名の一例です。
- 成分範囲(Cu/Ni 比)
- 抵抗率と温度係数
- 焼なまし/ばね材
- 寸法公差・平坦度
- ミルシートの有無
仕様票を横に並べて一致点を確認してください。
リサイクル対応と使用目的の実務ポイント

リサイクル・スクラップの考え方
リサイクル・スクラップの考え方は、銅‐ニッケル系として分別し、異材混入を避ける姿勢です。
例えば、半田や接着剤は除去し、乾燥後にロット票を添付します。
なお、引取条件は受入先の仕様で確認してください。
- 銅・黄銅・ニクロムと混在禁止
- 端材と完成品を別保管
- 表面処理の有無を明記
- ミルシート写しを同封
金属材料としての位置づけ/電池分野との接点
コンスタンタンは、金属材料としては「抵抗合金」に分類される素材です。
特に、温度による抵抗変化が小さいという特性を活かして、マンガニンと並び、精度の高い計測用途に広く使用されています。
電池分野においても、集電体としてではなく、シャント抵抗や温度検出などの“検出用途”で用いられる点が特徴的です。
たとえば、BMS(バッテリーマネジメントシステム)におけるシャント抵抗、バッテリーパック内部に組み込まれるT型熱電対、さらには評価治具内のリード線として使用されるケースが挙げられます。
なお、集電体としては銅やアルミが主流であり、コンスタンタンはその役割を担うことは基本的にありません。
FAQ

コンスタンタン金属は半田付けしていい?
推奨しません。
半田層で抵抗が漂い、温度で値がぶれます。
やむを得ない場合は低温・短時間・薄膜で処理します。代替は撚り+圧着か導電接着が無難です。
温度が上がると抵抗は増える?
一般金属は増えます。
コンスタンタン金属は温度係数が小さく、変化は小さいです。
使用温度域で実測し、基準点をそろえて評価します。
磁性はある?測定への影響は?
実務では非磁性〜弱磁性の扱いです。
強磁場では残留磁化の有無を確認します。
配線ループを小さくし、磁性体のねじやフレームから距離を取ります。
測定温度の上限は?
素材耐熱と運用上限は別です。
上限は素線径・保護管・雰囲気・等級で決まります。
採用品の規格表とカタログを照合し、安全側の温度マージンを確保します。
銅‐コンスタンタンと他材の使い分けは?
低〜中温の安定計測は銅‐コンスタンタン。
広温度域はK型。高温加熱はニクロム。精密抵抗はマンガニン。
目的と温度、雰囲気で切り替えます。
色コード・対記号の国差は?
色はJIS・IEC・ANSIで異なります。
対記号と極性刻印を先に確認し、色は最後の照合に使います。初回は氷水など既知点で正負を試験します。
英語ではどう検索する?
英語は Constantan、別名は Eureka です。
constantan wire、eureka foil、constantan strip を使い、寸法と公差も併記します。
まとめ
コンスタンタン金属は銅‐ニッケル系の抵抗合金で、温度係数が小さくT型熱電対や抵抗体・安定配線で力を発揮します。
実務は撚り+圧着や導電接着で非溶接接合、等温・脱脂・応力管理で安定に寄る運用です。識別は色でなく対記号と極性を優先してください。調達はConstantan/Eurekaと形状・寸法・公差まで明記してください。
迷ったら用途→特性→規格の順で選びましょう。
株式会社フラスコでは、昭和48年の創業依頼、一般産業用機械部品の設計・製作・組立をはじめ、チタンやタングステン、ジルコニウムなどの金属加工を行なってきました。
時代にニーズに合わせ、最新鋭の設備と創業から約40年間培った、難削加工を可能とする職人の加工技術で様々な製品を生み出しています。
他社には負けない、業界トップクラスの技術があります。
お問い合わせは無料なので気軽にご連絡ください。